3 1.口蓋□桃・アデノイド手術の歴史 人口 3 億 4000 万人の米国において口蓋□桃摘出術は最も多く実施されている手術の1つであり、年間 50 万件以上施行されている。このうち小児手術件数は 29 万件であり、適宜アデノイド切除術が併施されている。口蓋□桃やアデノイドの手術は、耳鼻咽喉科医が最初に学ぶ手術の一つであり、睡眠時無呼吸症や反復性□桃炎、慢性滲出性中耳炎などの疾患に対して、口蓋□桃摘出術とアデノイド切除術を適宜組み合わせて広く実施されている。耳鼻咽喉科の基本的手術手技のひとつであるが、術後出血が起こると再入院や再手術による止血処置が必要なこともあり、時に生命の危険を伴うことから、患者・医療者双方に身体的・精神的ストレスのかかる手術である。さらに近年、□桃手術の低年齢化ががみられているが、年少児では術後の呼吸困難や脱水症、後出血などの合併症の発生率がより高いことが知られており、殊に幼少児の□桃手術においては、従来法よりも安全な手術法が望まれる。 このうち口蓋□桃手術には 3000 年の長い歴史があることが知られている。紀元前 1000 年頃にはすでにインドで口蓋□桃切除術が施術されていたとの Hindu medicine の記録があるが、古代ローマ時代(紀元 30 年頃)には用指剥離による口蓋□桃摘出術の記載が見られ、紀元 600 年代には現代□桃手術とほぼ同等のメスによる口蓋□桃摘出術がほぼ完成されていたことが窺われる。しかしその後も□桃手術法は摘出術と切除術の間で変遷を続けている。現在行なわれている口蓋□桃摘出術のはじまりは、1906 年の Griffin, Caselberryらによる報告からであり、現代□桃摘出術の歴史はここ 100 年程度である。□桃手術へのパワーデバイスの応用は 40 年ほど前からはじまったが、ここ 20 年間では様々な新しいパワーデバイスが用いられるようになってきている。 一方で、アデノイド切除術が始まったのは今から 200 年ほど前である。口蓋□桃の存在と病的変化は紀元前の古代医術の黎明期から知られていたのに対して、アデノイドは開口するだけでは見ることができず、剖検症例において初めてその存在が確認された。その後、アデノイド顔貌を呈する症例に対してアデノイド切除術が有効であることが知られ、広く手術が実施されるようになったのだが、その間基本的な手術手技は大きく変わることなく現代に至っている。しかしパワーデバイスの応用でアデノイド手術も大きく変貌しようとしている。 □桃手術の歴史を紐解くと、最近 100 年の間に行われてきた従来型の手術法が必ずしも完成された手術ではないことが示唆され、刻々と変化しつつある現代□桃手術法の今後を予測する道標となる。2.口蓋□桃・アデノイド手術へのパワーデバイスの応用 口蓋□桃・アデノイド手術へのパワーデバイスの導入と、全身麻酔手術の一般化により、1980年代からはバイポーラやモノポーラなどの電気凝固器を止血に併用する Hot Tonsillectomy が一般的となり、さらに 1990 年代後半からはコブレーターや超音波メス、マイクロデブリッター、バイザクトなどの各種パワーデバイスが口蓋□桃摘出術に導入されてきた。バイポーラやモノポーラなどの電気凝固器では組織に 100℃を超える熱変性が起こるため、熱により周囲組織の損傷・壊死が起こるのに対して、コブレーターは低温(40 〜 70℃)で結合組織が切除され,周囲組織の熱損傷が少ない高周波低温メスである。またバイザクトは血管シーリング・エネルギーデバイスであり、70℃から 80℃でタンパク変性により血管内腔を癒合させるものである。いずれのデバイスも、術中出血はほとんどみられず手術直後の早期出血(Early Bleeding)も少ないことに加えて、比較的Ⅰ はじめにパワーデバイスを用いた口蓋□桃・アデノイド手術の手引き
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