1.総説【背景】 小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(Obstructive Sleep Apnea:OSA)に対して、口蓋扁桃摘出術(Tonsillectomy)は有効な治療法として広く施行されているが、従来法の手術には術後の早期出血・晩期出血や、術後疼痛による食事摂取の遅れなどの問題が指摘されてきた。一般に口蓋扁桃摘出術の術後出血は術者の経験年数に関わらず 1-4%とされ、アデノイド切除術の 0.3%と比べても高率である。口蓋扁桃摘出術後の死亡率は成人に比べて小児では低いが、米国における小児の口蓋扁桃摘出術後の死亡率は、小児全体で 7/100,000(0.007%)であり、さらに複雑な基礎疾患を持つ小児(手術症例の 2.8%)では 117/100,000(0.117%)と極めて高率である1)。米国において口蓋扁桃摘出術は最も多く施行されている手術のひとつであり、小児(18 歳以下)では年間 289,000 件の手術が実施されている2)。このことから、小児の口蓋扁桃摘出術後に年間 20 例もの術後死亡があり、そのうち 9 例が複雑な基礎疾患を持つ小児であると報告されている。 口蓋扁桃摘出術は耳鼻咽喉科の基本的手術手技のひとつであるが、術後出血が起こると再入院や再手術による止血処置が必要なこともあり、時に生命の危険を伴うことから、患者・医療者双方に身体的・精神的ストレスのかかる手術である。近年、低年齢児の OSA 手術が増加しているが、ボストン小児病院からの報告 3)では、3 歳未満では口蓋扁桃摘出術後の呼吸困難や脱水症、術後出血などの合併症の発生率がより高いことが知られている。従来、口蓋扁桃手術は慢性扁桃炎などの炎症性病変に対して行われることの多い手術であったが、昨今 OSA に対してその需要が増えている。殊に幼少児の口蓋扁桃手術においては、従来法よりも安全な手術法が望まれる。 1990 年代後半からはバイポーラやモノポーラなどの電気凝固器に加えて、コブレーターや超音波メス、マイクロデブリッター、バイザクトなどの各種パワーデバイスを用いた被膜外口蓋扁桃摘出術が導入されてきた。さらに近年、パワーデバイスによる被膜内口蓋扁桃摘出術(Powered Intracapsular Tonsillectomy:PIT)が導入されてきている4-6)。【パワーデバイス被膜内口蓋扁桃摘出術(PIT)とは、どんな手術か?】 被膜内口蓋扁桃摘出術(PIT:Powered Intracapsular Tonsillectomy)では口蓋扁桃の被膜を温存して被膜内の扁桃実質のみの摘出(口蓋扁桃切除)を行う手術であり、従来の被膜外で剥離・摘出する口蓋扁桃摘出術とは異なるものである。口蓋扁桃切除には、前口蓋弓から飛び出した部分だけ切除・焼灼する狭義の扁桃切除術(Class 1)と、扁桃被膜直上まで 90%程度の扁桃組織を切除する Subtotal Intracapsular Tonsillectomy(Class 2)に分類される7)。パワーデバイスの登場により、より精緻な Class 2 の口蓋扁桃切除が可能となっている。PIT では、口蓋扁桃被膜を温存し深部の血管豊富な咽頭筋層は損傷しないため、合併症である術後出血の頻度低下と術後疼痛の軽減につながる。 歴 史 的 に み る と、 被 膜 外 で 剥 離 摘 出 す る 従 来 型 の 口 蓋 扁 桃 摘 出 術(conventional Tonsill-ectomy:cTE)が標準術式となった 1950 年代以前には、主な扁桃手術術式は Class 1 の狭義の口蓋扁桃切除術(Tonsillotomy:TT)であったと考えられるが、パワーデバイスの登場により出血のコントロールを行ないながら、バリアーとなる口蓋扁桃被膜やその奥の咽頭筋層は温存して扁桃のⅢ 鏡視下パワーデバイスによる被膜内口蓋□桃摘出術 (Powered Intracapsular Tonsillectomy:PIT) パワーデバイスを用いた口蓋□桃・アデノイド手術の手引き21
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